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高松高等裁判所 平成7年(ラ)65号 決定

抗告人

株式会社アイテクノ

代表者代表取締役

安田岸雄

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

(1)  本件記録によると、確かに、抗告人と有限会社愛媛企業(以下、単に「愛媛企業」という。)との間で、別紙建物目録記載1ないし3の各建物につき、いずれも平成六年四月一五日付けで、同目録1記載の建物については期間三年、賃料一か月六〇万円、敷金七二〇万円との約定で、同目録2記載の建物については、期間三年、賃料一か月三〇万円、敷金三六〇万円との約定で、同目録3記載の建物については、期間三年、賃料一か月一〇万円、敷金一二〇万円との約定で、それぞれ賃貸借契約を締結したことが認められる。

(2)  しかしながら、本件記録によると、同目録記載1の建物はタイヨー技建株式会社(以下、単に「タイヨー技建」という。)が、目録記載2、3の各建物はタイヨー工業株式会社(以下、単に「タイヨー工業」という。)が、競売申立時においてそれぞれ所有していたことが認められ、抗告人の賃借権は、右タイヨー技建若しくはタイヨー工業と愛媛企業との間の賃借権を基礎とする転賃借権である以上、抗告人の賃借権が保護されるべきか否かは右愛媛企業の原賃借権が保護されるべきものか否かにかかることになる。

(3)  これを本件記録に基づき検討するに、原賃借権の内容は、別紙建物目録1ないし3記載の各建物について、いずれも、平成五年一二月七日付け、期間三年、敷金無、譲渡・転貸可の特約付であり、同目録記載1の建物は、賃料一か月六〇万円、三年分賃料(二一六〇万円)全額前払い、同目録2記載の建物は、貸料一か月三〇万円、三年分賃料(一〇八〇万円)全額前払い、同目録3記載の建物は、賃料一か月一〇万円、三年分賃料(三六〇万円)全額前払いというものである。加えて、これらの賃借権は、いずれも、タイヨー技建が手形不渡りを出した平成六年二月二八日のわずか約三か月前に設定され、かつ、平成六年二月九日、タイヨー技建及びタイヨー工業の経営が悪化して、建物差押が予想されたこと(実際に同月二二日にはシャープファイナンス株式会社の仮差押がなされている)をきっかけに、いずれも賃借権設定仮登記が経由されている。しかも、本件記録によると、各賃貸借契約の賃料総額金三六〇〇万円が全額前払いされた理由はタイヨー技建の代表者である村上廣幸がその運転資金を必要としたためであったこと、別紙物件目録記載の各建物はいずれもステンレス加工工場であるところ、原賃借権者である愛媛企業に工場操業能力はなく、愛媛企業がこれらの建物を占有使用した形跡はないこと、転借人である抗告人は、転貸借契約の一週間前である平成六年四月八日に設立された会社であって、かつ、その設立当初はタイヨー技建の代表者である村上廣幸及びタイヨー工業の代表者である村上正幸が役員となっており、本件競売の入札にも参加していたこと、すなわち、抗告人は、タイヨー技建及びタイヨー工業がその工場である別紙建物目録記載1ないし3の建物について、自己の占有確保及び工場操業の確保を目的として設立された会社である可能性が高いこと、の各事実が明らかである。

以上の事実によると、愛媛企業の賃借権は、建物の占有使用を目的として設定された正常な賃借権ではなく、賃料前払いの形式で交付された金銭債権の回収・管理を目的として設定されたものであることが明らかと言え、このような賃借権は、執行法上保護に値しないと言うべきである。したがって、そのような賃借権を基礎にした抗告人の転借権も保護されないと言うべきであり、抗告人の占有権限はいずれも正当なものとは認められない。

たとえ抗告人が主張するように、実質的にはタイヨー技建・タイヨー工業との賃貸借であったとしても、抗告人が設立された目的が前記のとおり、タイヨー技建及びタイヨー工業の別紙建物目録記載1ないし3の建物に対する占有確保にあった可能性が高い以上、上記の結論に変わりはない。

(4)  よって、本件引渡命令の発令には違法はなく、本件執行抗告の申立ては理由がないので主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官大石貢二 裁判官一志泰滋 裁判官重吉理美)

別紙〈省略〉

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